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福岡高等裁判所 昭和53年(行コ)32号 判決

控訴人

荒金和子

右訴訟代理人

徳田靖之

牧正幸

被控訴人

別府市

右代表者市長

脇屋長可

右訴訟代理人

山本草平

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人が控訴人に対し昭和四八年九月一三日なした大分県別府市大字南石垣字井ノ下一三八四番山林399.99平方メートルについての仮換地として街区番号八四―一地積342.00平方メートルを指定する旨の仮換地指定処分を取り消す。

2  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審を通じこれを二分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し昭和四八年九月一三日原判決添付物件目録(一)記載の土地についてなした仮換地指定処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は、次のとおり加えるほか、原判決事実摘示(原判決一枚目―記録一五丁―裏一〇行目から原判決八枚目―記録二二丁―表一二行目までと、原判決添付物件目録(一)(二)とを含む。)と同一であるから、これを引用する(但し、原判決二行目―記録一六丁―裏八行目に「停止するわかりに」とあるのを「停止するかわりに」と改め、原判決八枚目―記録二二丁―表四行目に「第二号証の一、二」とあるのは「第二号証の一、二、三」と改める。)。

一  控訴代理人は、次のように述べた。

1  本件仮換地指定処分がなされた時点において、未だ本件仮換地の所有者との話し合いができていなかつたばかりでなく、その仮換地たる土地のまた仮換地の所有者との話し合いも始められておらず、工事がいつ着工できるかの目途もたつていなかつた。それがため、本件仮換地は、宅地の仮換地でありながらその大半が使用禁止になるという異常な状態となり、現在でも右仮換地の所有者との交渉は開始されておらず、いつ道路の新設等の工事に着工できるのか目途もない。したがつて、本件仮換地指定は道路新設等の工事のための具体的必要性もないのになされたというべきである。

2  仮に、本件仮換地指定処分が土地区画整理法(以下法と略称する)九八条一項前段による仮換地指定処分であるとしても、本件仮換地指定処分には、次のような違法があるから、取り消されるべきである。

法九八条一項前段によつて指定される仮換地は工事のための一時的な使用地であるから、直ちに使用収益できる土地でなければならない。特に、本件従前地のうち大分県別府市大字南石垣一三八四番の土地(以下一三八四番の土地という。)は、現況宅地であつてその地上に控訴人ら居住の家屋が建築されているから、同土地につき指定される仮換地は右家屋を移転し得る土地でなければならないことが明らかである。しかるに、前叙1のとおり、本件仮換地指定処分当時において一三八四番の土地についての仮換地のまた仮換地の所有者との交渉開始の目途すらたつていなかつたのであつて、本件仮換地指定の理由となるべき工事がいつ着工できるかの目途がたたず、更に一三八四番の土地の仮換地についての使用禁止が解除される時期も判明していなかつた。そして、仮換地指定後六年余を経た現在においても一三八四番の土地についての仮換地の所有者との交渉がなされている段階にすぎない。工事着工の目途もないのにこのような使用不能地を仮換地に指定することは、法九八条一項前段の仮換地指定処分として許されない。

二  被控訴代理人は、次のように述べた。

1  一1の控訴人の主張及び主張事実を争う。

本件土地区画整理事業は、各年度の予算とこれに伴う道路工事範囲を仮換地区域として設定されたものであつて、各年度ごとに仮換地を指定せざるを得ないのは、生活道路の確保、通過交通などの車動線処理、既存水路との切替えなどの排水処理、各人の仮換地における使用不能の関係、従前の利用形態との照応、単年度内での事業効果を勘案せざるを得ないからである。本件仮換地指定に関する道路工事は、昭和四八年度要望時の道路工事予定個所であつて(昭和四七年六月一六目申請)、これに伴い昭和四八年度に仮換地指定区域として具体的に道路、水路工事実施個所を定めたのであり、本件仮換地指定の必要性及び具体性は十分に存した。

2  一2の主張のうち、法九八条一項前段によつて指定される仮換地はできるかぎり従前の土地と同等の使用収益可能な土地であることが望ましいことは認めるが、その余の主張及び主張事実を争う。

工事のための一時使用的な仮換地であつても、換地計画決定の基準を考慮することを要し、照応の原則にできるだけ適合することが望ましく、そのためには従前地と仮換地の位置、地積、土質、水利等を検討し、これらが照応するように努めなければならない。本件第二石垣地区区画整理事業の対象地区のようにその現況の大半が宅地又は農地である場合、これら土地上の支障物件に対する補償交渉を完結し、これら支障物件を除去してはじめて使用収益ができる状態となるのはやむを得ないところであり、控訴人主張のような仮換地を指定するためには対象地域がすべて更地でなければ絶対に不可能であつて、極めて不合理なこととなる。本件においては、仮換地指定区域が使用収益できるようになるまでの間は従前地を従来のとおり使用収益できることにしているから、関係当事者には実質的な不利益はまつたく生じていない。

控訴人は、抽象的に街路新設の関係で本件従前地に対し仮換地の指定が必要であるとしても、その具体的な目途がたつていない場合に本件のような仮換地指定をすることは許されない旨主張するけれども、本件街路区の新設は抽象的ではなく、すでに工事に着工し、第二石垣土地区画整理事業は本件係争地周辺を除きすべて完工に近付いているのであつて、当初から具体的な目途があつたけれどもそれが補償交渉の難航から日時的な遅れをみているにすぎない。

してみると、本件仮換地指定には照応の原則の違背はなく、控訴人に対し何ら実質的な不利益を与えていないから、補償交渉の難航から生ずる日時の遅れは受益者として受忍すべきであつて、いずれの点からしても控訴人の主張は失当である。

三  控訴代理人は、当審証人外山健一の供述を援用した。

理由

一当裁判所は、本件仮換地の指定が法九八条一項前段所定の「土地の区画形質の変更若しくは公共施設の新設若しくは変更に係る工事のため必要がある場合」に該当してなされ、換地計画の策定がなくても右仮換地指定処分は違法とならないとするものであつて、その事実認定及びこれに伴う判断は、次のとおり加えるほか、原判決の理由説示(但し、原判決八枚目―記録二二丁―裏二行目から原判決一二枚目―記録二六丁―裏七行目まで。)と同一であるから、その記載を引用する。

「控訴人は、本件仮換地指定につき道路新設等の工事のための具体的必要性がなかつた旨主張するので、この点につき判断する。

〈証拠〉を総合すると次の事実が認められる。

(一)  本件土地区画整理事業施行区域のうち本件従前の土地が存在する吉弘地区については、昭和四六年三月三〇日計画街路八二、八三号線の新設が認可され、八二号線が大分県別府市大字南石垣字千疋浦一〇三四番二(以下一〇三四番二の土地という。)の一部を、八三号線が一三八四番の土地をそれぞれ通過することとなつたため、本件従前地はいずれも道路設置工事の対象となり、昭和四八年九月一三日右従前地について本件仮換地指定処分がなされた(この点は当事者間に争いがない。)。

(二)  吉弘地区における右工事は昭和四八年四月一日に着工し昭和四九年三月三一日までに完工する予定で昭和四八年に着工されたが、一三八四番の土地の仮換地たる土地のまた仮換地の所有者との立退き交渉が難航しているため、吉弘地区においては一三八四番の土地周辺を除いては道路新設等の工事がほとんど完了しているものの同土地周辺だけが未だ着工されずに残されている。

以上の事実を認めることができ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

さすれば、一三八四番の土地については仮換地指定後六年余を経過した現在においても道路新設等の工事が着工されていないけれども、前叙説示の経緯からすれば、右事実にもかかわらず本件仮換地指定につき道路新設等の工事のための具体的必要性があつたものと認めるのが相当であり、控訴人の右主張は採用することができない。」

二控訴人は、本件仮換地指定が法九八条一項前段の仮換地指定処分としてなされたのであれば、工事着工の目途もないのに使用不能地を指定することは許されない旨主張するので、この点につき判断する。

〈証拠〉を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  一〇三四番二の土地の仮換地として街区番号六九―一地積285.00平方メートルが指定されたが、約二八パーセントの減歩となるだけで控訴人が右仮換地を使用するにつき何らの支障がなく、すでに一〇三四番二の土地について道路新設等の工事が完了している。

2  一三八四番の土地の仮換地として街区番号八四―一地積342.00平方メートルが指定され約一五パーセントの減歩にとどまつたものの、右仮換地の約五九パーセントを占める201.20平方メートルが使用禁止とされ、同部分の使用収益開始の日はおつて通知する旨指定された。右の201.20平方メートルが使用禁止とされたのは、一三八四番の土地の周辺の土地につきいわゆる目白押しの仮換地指定がなされたため、一三八四番の土地の仮換地の所有者首藤某及びその仮換地のまた仮換地の所有者中津熊某との間に立退きの交渉をする必要があつたからで、右201.20平方メートルの使用収益開始の時期については何らの目途もたつていなかつた。一三八四番の土地は現況宅地であつて、同土地の大部分に控訴人ら居住の家屋が建築されているが、同土地の仮換地のうちの201.20平方メートルが現在に至るも使用禁止となつているため右家屋を移築することもできず、同家屋は従前地の一三八四番の土地上に存置されたままとなつている。被控訴人は、本件仮換地指定処分後六年余を経過した現在においてようやく一三八四番の土地の仮換地のそのまた仮換地の所有者中津熊との間で立退きの交渉に入つただけで一三八四番の土地の仮換地の所有者首藤との間では立退きの交渉すらなされず、現在に至つても右201.20平方メートルの使用開始の時期についての目途がたつていない。

以上の事実を認めることができ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

ところで、法九八条一項前段の仮換地指定をする場合においても、法八九条一項所定のとおり仮換地と従前の土地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように考慮しなければならないところ(法九八条二項)、仮換地が指定された場合、従前の土地について権原に基づき使用収益し得る権限を有した者は、仮換地指定の効力発生の日から換地処分公告の日まで、仮換地について従前の土地に存する権利の内容たる使用収益権と同じ内容の使用収益権を取得する代りに従前の土地に存した使用収益権能を停止される(法九九条一項)。したがつて、従前の土地の利用状況を確保することができないような仮換地を指定することは、原則として法八九条一項に違反し違法というべきである。

本件についてこれをみるに、前叙1のとおり、一〇三四番の土地については約二八パーセントの減歩となつた仮換地が指定されたけれどもその使用に何らの支障もないから、同土地についての仮換地指定には法八九条一項所定の照応の原則に反する点は認められず適法というべきである。しかし、前叙2で説示したとおり、一三八四番の土地については約一五パーセントだけ減歩の仮換地が指定されたものの、そのうちの約五九パーセントを占める201.20平方メートルが使用収益開始の時期について何らの目途もなく使用禁止とされ、その仮換地指定処分後六年余を経過した現在においても右201.20平方メートルの使用開始の時期についての目途がたつていないため、右仮換地を一三八四番の土地におけると同様に控訴人ら居住家屋の敷地として使用収益することができない状況になつているから、一三八四番の土地についての仮換地指定は、法八九条一項所定の利用状況につき照応しないものとして違法と解するのが相当である。

なお、被控訴人は、一三八四番の土地についての仮換地指定については従前地である右土地を控訴人に従来のとおり使用収益させているから照応の原則に反しない旨主張するけれども、前叙のとおり、従前の土地について権原に基づき使用収益し得る権限を有した者でも仮換地指定処分がなされると従前地を使用収益できないことになるから、仮に控訴人が仮換地指定後も従前地である一三八四番の土地を従来どおり使用しているとしても、右は事実上のものにすぎないのであつて法律上許容されたものではないから、右仮換地指定が照応の原則に反するとの前叙結論を左右するに足りず、被控訴人の右主張は失当である。

三してみると、被控訴人のした本件仮換地指定処分のうち、一〇三四番二の土地についての仮換地指定処分は適法であるが、一三八四番の土地についての仮換地指定処分は違法というべきである。

したがつて、控訴人の本件請求のうち、一〇三四番二の土地についての仮換地指定処分の取消を求める部分を失当として棄却し、一三八四番の土地についての仮換地指定処分の取消を求める部分を正当として認容すべきである。

四よつて、以上と結論を異にする原判決を民訴法三八四条、三八六条に従い変更することとし、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(園部秀信 森永龍彦 辻忠雄)

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